子供の落ち着きがない 原子反射統合不全との関係
大村 颯太

子供の落ち着きがない 原子反射統合不全との関係

はじめに.

お子様の「落ち着きがない」「じっとしていられない」といった行動は、子育てや教育の現場でしばしば課題として挙げられます。これらの行動は、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)といった神経行動障害の症状と関連している場合があります。

ASDは、言語障害、社会的交流の減少、認知機能の欠陥、および制限された反復的な行動のパターンによって特徴づけられる複雑な神経発達症候群です。症状は通常3歳未満で現れ、生涯にわたって持続する可能性があります。ASDを持つ人々は、特有の学習、運動、および注意のスタイルを持つことがあり、これが「落ち着きのなさ」として現れることがあります。

近年、**原始反射の残存(RPRs:Retained Primitive Reflexes)**が、こうした神経行動障害や発達の成熟遅延と密接に関連している可能性が指摘されています。本記事では、子供の落ち着きのなさと原始反射の統合不全との関係について解説します。


1. 子供が落ち着かない原因

子供が落ち着きを失う原因は多岐にわたりますが、神経発達の観点からは、主に脳機能の非同期性や発達の未熟さが関与していると考えられます。

神経発達の非同期性 ASDの個人は、脳ネットワークの機能的接続異常(機能的切断症候群)を示すことが多く、広範囲にわたる統合的な低周波数活動の低下と、局所的で高頻度な専門化された活動の増加という「U字型」のEEGパターンを示す傾向があります。 特に、ASDでは長距離接続の過少接続(underconnectivity)と短距離接続の過剰接続(overconnectivity)が見られ、右半球に偏った異常な側方化を伴うことが指摘されています。このようなネットワークの不均衡は、効率的な神経処理を妨げ、認知機能の「ムラ」(unevenness)や行動の困難さにつながる可能性があります。

運動機能の未熟さ 落ち着きのなさや多動性(ハイパーアクティビティ)は、高周波数EEG(ガンマ波)の過剰と関連があると指摘されています。また、ASDや他の神経行動障害を持つ子供は、ぎこちなさ(clumsiness)、運動協調性の欠如、不適切な姿勢、歩行障害など、運動機能の異常を伴うことが知られています。これらの運動の困難さは、環境との効率的な相互作用を妨げ、結果的に落ち着きのなさや不器用さとして表面化します。


2. 原始反射統合不全とは

原始反射の役割

原始反射(Primitive Reflexes)は、出生時および胎内ですでに存在する感覚/運動反射です。これらの反射の主な機能は、生まれたばかりの乳児が発達した成熟した運動皮質がない状態で環境に対応し、移動、摂食、保護、方向付けを行うことを可能にすることです。反射による動きは、感覚運動フィードバックを生み出し、脳をボトムアップで構築する遺伝子を活性化させます。

原始反射の統合(抑制)

脳が成熟するにつれて、これらの反射のコントロールは、脳幹の下位領域から上位領域へと移行し、最終的には前頭葉の発達によるトップダウン制御によって抑制(統合)されます。通常、原始反射は生後数ヶ月以内に抑制され、最も長く残る足底反射でさえ生後1年で消失すると考えられています。この抑制は、より複雑で、個別化された自発的な運動制御を促進するために不可欠です。

原始反射統合不全(RPRsの残存)

  • *原始反射統合不全(RPRsの残存)**とは、これらの原始反射が通常の時期(生後12ヶ月頃)を超えて持続している状態を指します。 RPRsの存在は、神経学的未熟さや、皮質-皮質下ニューラルネットワークにおける発達の遅延、または機能障害のサインと見なされます。もし発達過程で「ボトムアップの干渉」による遅延や障害が発生すると、より高度な脳領域の発達が遅れ、原始反射を抑制するための適切なトップダウン制御が妨げられる可能性があります。

特に、RPRsが非対称的に残存している場合、これは脳の半球間の成熟と成長の非対称性を示唆する強力な根拠となります。


3. 子供の落ち着きと原始反射統合

原始反射の残存は、落ち着きのなさやその他の神経行動上の症状に深く関連している可能性があります。

運動機能と落ち着きの連鎖 RPRsは、運動機能の遅延や欠陥と強く関連しています。例えば、非対称性緊張性頸反射(ATNR)の持続は、正中線を横切る指先の器用さや、寝返り、ハイハイ、自転車に乗る、ボールを蹴るなどの粗大運動能力の低下に関連しています。原始反射の残存は、子供の物体との相互作用能力や、身振り(ジェスチャー)を含む他者との相互作用能力にも悪影響を及ぼし、これが日常生活や学習環境における「落ち着きのなさ」や「不器用さ」として現れると考えられます。

成熟遅延の指標 ASDを持つ子供や青少年のRPRsの持続は、皮質の成熟遅延を示唆し、認知機能および実行機能の発達の遅延と相関する可能性があります。 神経発達の初期段階における原始反射の持続などのわずかな差異が、その後の運動スキルだけでなく、コミュニケーションや社会的行動など、他の広範な行動領域に悪影響を及ぼす可能性があります。

介入による改善の可能性 RPRsの統合を目指した介入は、神経行動障害の改善につながる可能性が示されています。感覚刺激や特定の運動を用いた治療的アプローチは、RPRsの減少をもたらし、それに伴い認知機能のパフォーマンスが向上することが確認されています。 例えば、ASDを持つ人に対し、片側の脳を標的としたマルチモーダル感覚刺激(例:T.E.N.S.とRPR刺激)を用いてRPRsの統合を図ることで、認知機能に有意な改善が見られました。この改善は、脳ネットワークのより最適化された組織化、特に右半球における長距離接続性の改善によるものと説明されています。 原始反射の統合を促すことは、「ボトムアップ干渉」を解放し、皮質成熟とトップダウン制御の適切な発達をサポートするのに役立つと考えられます。


終わりに.

子供の落ち着きのなさや、ASDに見られる行動や運動のぎこちなさは、単なる「個性」ではなく、原始反射の残存という神経学的成熟遅延のサインである可能性があります。RPRsは、乳児期以降も存続する可能性があり、その評価は神経発達遅延の早期マーカーとして重要です。

原始反射の統合を通じて、脳の機能的接続性を改善し、非対称な成熟の不均衡を是正することで、子供の運動機能だけでなく、**認知機能や行動の安定(落ち着き)**に測定可能で有意な好影響を与えることが、研究によって支持されています。

したがって、お子様の落ち着きのなさや発達のムラにお悩みの場合は、原始反射の観点から専門家にご相談いただくことが、改善に向けた新しい道筋となるかもしれません。

【参考文献】

  1. Melillo, R.; Leisman, G.; Machado, C.; Machado-Ferrer, Y.; Chinchilla-Acosta, M.; Melillo, T.; Carmeli, E. The Relationship between Retained Primitive Reflexes and Hemispheric Connectivity in Autism Spectrum Disorders. Brain Sci. 2023, 13, 1147.
  2. Melillo, R, Leisman, G, Machado C, Machado-Ferrer Y, Chinchilla-Acosta M, Kamgang S, Melillo T and Carmeli E. Retained Primitive Reflexes and Potential for Intervention in Autistic Spectrum Disorders. Front. Neurol. 2022, 13:922322.
  3. Melillo, R. J., Leisman, G., Machado, C., & Carmeli, E. Identification and reduction of retained primitive reflexes by sensory stimulation in autism spectrum disorder: effects on qEEG networks and cognitive functions. BMJ Case Reports, 2023, 16(12), e255285.
  4. Leisman, G.; Alfasi, R.; Melillo, R. Neurobiological and Behavioral Heterogeneity in Adolescents with Autism Spectrum Disorder. Brain Sci. 2025, 15, 1057.
  5. Leisman, G.; Machado, C.; Melillo, R. Cortical Visual Impairment in Childhood: ‘Blindsight’ and the Sprague Effect Revisited. Brain Sci. 2021, 11, 1279.

ブログを書いたスタッフ

大村 颯太

大村 颯太

〜薬に頼りすぎない人生を共に創る〜 理論に固執しすぎず、結果にこだわる柔軟な施術家を目指しています。 ・理学療法士 ・健康科学修士 ・JEFPA認定足育アドバイザー ・発達ケア・アドバイザー ~Let's create a life together that doesn't rely too much on medication~ I aim to be a flexible therapist who focuses on results and doesn't get too hung up on theory. ・Physiotherapist ・Master of Health Science ・JEFPA certified foot care advisor ・developmental care advisor

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